「ホテルローヤル」の感想

「ホテルローヤル」の感想

福岡のブックオフで100円で買った本。第149回直木賞受賞作ですよ。

舞台は釧路辺り、朽ち果てたラブホテルに入り込み写真を写す男女の短編から始まり、同じ建物をめぐる幾つかの短編を通して時代が遡っていく。

最初あまり面白くないなあと思って読んでいたんですが、途中で元経営者の娘が経営難からラブホテルをたたむ短編あたりから面白くなってきました。

他に日常に疲れた嫁が旦那をつかの間の非日常に誘う話など、廃墟となった建物も過去に輝いていた時代があったのだなと思う。札幌で行き場を失った教師と生徒があてもなく釧路行きの切符で列車に乗り込む結末という直接ホテルローヤルが登場しない短編もあります。(この二人はローヤルの行く末に大きく関係するんですけどね)

切なく侘しい男女の話だけというのでもなく、なんだろう一人一人の歩んできた人生を凝縮した感じ。男女というものはちょっと悲しく滑稽で、でも一瞬輝いた時もあったんだよなあと思い出すような。

ホテルローヤルの登場人物に比べれば、自分がいかに健全な人生を送ってきたかと思ったけど、実際は私も二度離婚したりしていたんですね。すっかり忘れていましたが。そういう感じのだめだめな人達の物語。
 

この桜木紫乃という人の作品は過去に「起終点駅(ターミナル)」というのを読んだことがあります。(映画化されたね) これもちょっともの悲しく、年齢を重ねた人が読めば心に染みるような短編集だったと思いますが、ターミナルの方が希望があるようないい話だったかも。ホテルローヤルはほぼどうしようもない男女の話だから。
 

「星を見ていた」という短編は、ホテルローヤルの従業員の話ですが、これは悲しく涙が出そうでした。でもこの主人公のミコは愚直に一生懸命生きて、悲しいこともあるけれどもしかしたら本人は幸せだったのかもしれません。

最後の「ギフト」って短編に「だいだい、自信に根拠がある方がおかしいんだ。」という文が出てきてしまいました。「稼がない男」にも出てきた根拠のない自信です。

これはホテルローヤルというラブホテル経営を始めようとする元経営者の話だけど、その根拠のない自信が悪く出た例なのかもしれません。ローヤルという名前の起源が明かされます。

輝かしい人生を歩んできた人は、こういう話は面白いのかな? まあ面白いという種類の小説ではありませんが、何か自分の人生に重ね合わせながら、どうしようもない人生の機微をしみじみと読む。そういう短編集です。

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