信念で「稼がない男。」と、それを彼氏に持つフリーライターの話
以前より気になっていた「稼がない男。」という本を手に入れ読みました。
これは西園寺マキエという女性フリーライターの書いた本です。30歳を過ぎて元同級生の男と付き合う事になるのですが、その彼氏が新卒一年で広告代理店を退社してしまい、その後ずっとフリーターとしてバイトで生活しているという内容です。
彼は広告代理店を辞めただけでなく「会社勤め」という生き方そのものを、すっぱりとやめてしまうのです。
モラトリアム世代という言葉が流行ったこともありましたが、彼は「会社勤め」が自分の倫理観や性格に合わないと早々に悟り、社会に迷惑をかけず生きるのにそれほどお金はかからないのではないか、ならば必要な分だけ稼げばいいという思考になったわけです。
彼の貯金は100万円程度で余裕はありませんが、アルバイトで月に十万円ちょっとは働いています。そして少しずつ貯金もし、時間のある生活を楽しむという、人生最初から貧乏セミリタイアのような生活を楽しんでいます。
また著者の方は、腰掛け就職、結婚=寿退社というあの頃(バブル期)の多くの女性と同じ理想を持っていましたが、彼との生活の中で一般的な普通の幸せということについて考える事になります。女性には出産の期限もあり、これも彼女を悩ませます。
著者の女性は、自分が結婚したいとすればその理由は、ウエディングドレス姿が見られるうちに、それを着て写真などに残しておきたいという他愛もないものだと分析しました。そして格安のドレスを探し自分達で結婚式ごっこをするのですが、自分も前の嫁さんを思い出しました。
前の嫁さんは自分で格安のドレスを用意していて、写真を撮るだけでいいということだったのでそれで済ませてしまったのですが、あの人のお金を使わないというところに影響は受けていたのだと思うし、それが今に繋がっているはず。もしそういう考えを持てなかったら辛いまま働きつづけて精神を壊していたかもしれません。
ただ年齢が上がるに連れ若者のような気ままな暮らしというわけにもいかなくなってきます。
バイトを社会保険に加入させないため労働時間を減らされたり、新しい仕事も見つけにくくなる等問題も出て来ますが、彼の達観ぶりもなかなか気合いが入っていたりして。著者の方もフリーランスという性格上、厚生年金も退職金もないし社会保険も自腹、更にリーマンショックで仕事減の煽りを受けます。
一般的にいう絵に描いたような幸せな人生を送る後輩から、やはり結婚や仕事についてツッコまれたりもします。もちろん後輩には悪気はない。後輩は自分が幸せだから同じようにしてはどうだろうと口を出したくなる。優秀な先輩である彼にはもっと稼ぐ力があると思うから。しかし稼がない男は今のままで十分幸せなのだが、そういう生き方は分かってもらえない。
不安も確かにある。だけども将来の心配ばかりして生きているのもおかしい気がするし。
酔っ払った彼と彼女との会話。青臭いと言われるかもしれないけど、私はこういうのが好きなのです。
「ねえ、自分をまっとうするって、今ひとつ良く分からない。誰だって自分をまっとうしたいって思ってるんじゃないの?」
「いや、俺に言わせれば、自分らしく生きて、自分をまっとうしたいという意識が、みんな低すぎる気がしてならない。」
「周りの価値観に流されてるってこと?」
「それもある。実際、周りにどう思われるかで自分の生き方を決めている人は多いだろうし。但しどう生きるかは人それぞれだから、人によっては『しっかり金を儲けて家族を幸せにする』っていうのが本当に自分らしい人もいる。」中略
「みんなが踊らされている舞台ってのは資本主義経済ってこと?」
「まあね。でもそんな単純じゃない。それも舞台装置の一つなのかな。だから俺はできるだけ踊らされずに、生物としての自分をまっとうしたい。なのにみんな周りばっかり見てるから、そもそも自分がどうしたかったのか分からないのさ」
自分と同世代のカップルの話ですが、年代が同じということで時代背景も分かるし、妙に共感する箇所も多々あり私にとっては良い本でした。彼の言い分にも適当すぎるというきらいはあると思うし、バリバリ働くタイプの人に彼の生き方は理解しがたいと思うけど。
難しい思想とか理論とかが書かれているわけじゃないですが、一般的に語られる普通の幸せ、皆と同じ生き方をする事、そこから外れて少数派になる事、それらを考え始める足がかりになる本だと思います。
一度きりの人生を、どう生きるのか。
お金を稼ぐのか? 仕事で大成するのか?
趣味や夢に生きるのか? 愛と正義をつらぬくのか?
幸せな人生を送るために、自分にとって
一番大切なものがなにか、考えていくしかない。
彼のような生き方が理想だとかいうのではなく、人によって様々な生き方があって良いのだから、自分の考える幸せを押し付けるのはやめて欲しい。自分と違う生き方や考え方をことさら批判したり偏見を持つのはやめよう、それらを上っ面だけじゃなく芯から許容できるようになろう、そんな風に思います。(今日はまじめ)
最後に、
「例の、根拠のない自信ね。」
「そっ。だけど考えてみてよ。根拠がある自信なんて大した自信じゃないぜ。だって、根拠がなくなったら、ダメになっちゃうんだから。根拠なんてあろうがなかろうが、そんなものはどうでもいい自信。それが本当にその人を支える自信なのさ。」
バカに見えてもいい。何があっても乗り越えていけると自分を信じるだけ。自分はそんなに強くないので、そう言い聞かせて過ごしていこう。
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